本日の勉強会も終了した。龍也は早く告白しないと夏休みが終わるぞと口うるさいが、宿題がまだ残っている奴に言われたくないと返してやった。

 帰ろうと屋敷の門を抜けかけたとき、ペンケースを忘れたことに気がついた。先に帰っていいと龍也を行かせてから、再び屋敷に入らせてもらう。

 使用人に声をかけようと思ったが、今は皆忙しいようでかける暇がない。

 暦さんの部屋の前で立ち止まると、中からピアノの音が聞こえた。昼間聴いた『2台のピアノのためのソナタ』とは裏腹に切なく泣けてくるメロディーが壁を隔てて伝わる。

 演奏中に涙を流しているのか、しくしくと泣く声まで聞こえてきた。

 僕は扉に手をかけることもできず、そのまま帰ることにした。