怒涛の勢いで、リムジンに乗せられて暦さんの家にやってきた。

 彼女の屋敷は8月下旬の暑い外気を通さず、クーラーが効いている。

 昨日、夏休みが終わるまで来れないと言ったから、恥ずかしい。

「いやー、今年は心強いな。定期テストの2トップが面倒を見てくれるから」

 海水浴の帰り龍也も暦さんの友だちだからと、大川さんと連絡先を交換したらしい。そして、夏休み終盤で宿題確実に終わらせるために、暦さんの家で勉強会をすると連絡を入れたらしい。

 本当に悪知恵は働くやつだな。

「しばらく喜録様が来れないと聞いていましたが、来ていただいて本当に嬉しゅうございます。きっとお嬢様も喜ぶことでしょう」

 大川さんに連れられて甲冑などが両端に並べられている廊下を渡っていると、向こうから七瀬さんが歩いてきた。

 僕は会釈をすると、すれ違い様そっぽを向かれる。

「御二人とも、申し訳ございません」

「大川さんは謝らないでください。僕は気にしていませんから」

 内心はあの女性に怒りを抑えているが。

「そうそう。それに俺のことは眼中にすら入っていないみたいだしね」

 そのまま廊下を進むとお屋敷で見た中で1番豪華な装飾が施された扉の前に立った。

 てっきり、書庫で勉強をするものかと思っていた。

 大川さんはノックをして「お嬢様。御友人が遊びに来ていますよ」と声をかける。

 この先は暦さんの部屋のようで、緊張に手が汗ばむ。

 母さん以外で女性のプライベート空間に入ったことがないから、僕が入ってもいいのか不安だった。

「開けてー」

 扉の向こうから聞こえてくる弾んだ声に、緊張の糸が緩み安堵した。

 ヘアの中は白で統一されていて清楚な感じもするが、どこかの国のお姫様の部屋と言う方があっている。その中で主張するのは、唯一明瞭とした色の黒いグランドピアノ。暦さんはその椅子に座って楽譜らしきものを読んでいる。

「暦ちゃん。今日は白のワンピースで超お嬢様っぽい」

 彼女の普段の服装はパーカーなどのラフなスタイルとフリルやレースのブラウスやワンピースの清楚でかわいらしいスタイルの2種ある。

 今日はお嬢様な感じで、部屋の色と同調して透明に感じる。まるで、目の前にいるのに、どこかへ消えてしまうそうだ。

「歩くんと竜弥くんだっけ?」

 ようやく、龍弥の名前も覚えたようだ。だが、多分別の漢字で認識しているんだろうな。最初に間違えたことを指摘しなかったから。でも、最近の龍也は図に乗ら過ぎているし、今更教え直すつもらもないし。揶揄われているせめてもの仕返しに、そのままにしておこう。

「おう。歩と3人で勉強しようぜ」

 暦さんは朗らかに「うん。勉強しようね」と笑う。