ことの張本人は龍也だった。調子に乗ってはしゃいでいる内に日射病にかかったようだ。

 だから、忠告したのに。

 あれからこのバカをビーチパラソルの下まで運んで休ませている。

「大丈夫なの?」

 暦さんも心配しているが、多分大丈夫だろう。

 見た感じ重度ではない。これなら日陰で十分な休息を取って、こまめに水分補給を行う。あとは、欠陥の多い脇下や首の裏などを氷で冷やせば問題ない。

「へぇー。詳しいね」

 海の家で買った水や氷で対処療法を行なっていると、隣から暦さんが感嘆の声を上げる。

 これくらい医者を目指しているなら、まだまだ底レベルの知識だ。大したことはない。

 だが、暦さんに賞賛されたことに、舞い上がっている自分がいた。

「多分いつも読んでいる本、医学書だよね。将来の夢はお医者さん?」

 龍也を診る片手に無言で頷く。

「どうしてお医者さんになりたいの?」

 やけに食い下がるな。

 暦さんが何か質問をするのはよくあるが、大抵は同じことを繰り返し問いかける。

 1つの話題を続け様に別の内容で聴いてくるのは珍しい。

「父さんが医者だから、僕も同じ職業に就きたいって思った。ただそれだけ」

 さっきの質問に率直な答えを出す。

 だが、暦さんは「お父さんのこと、尊敬しているんだね」と受け止めた。

 父さんを尊敬している?

 僕の胸の内では、長年忘れていたものが呼び起こされたような衝撃が起きている。

「腹減った〜」

 漠然としていた僕の呼吸を乱すのは、素っ頓狂な龍也の声だった。

「邂逅一番にそれか。しかも、日射病の真っ最中に」

 呆れながら、龍也に説教を垂れる。

「僕、言ったよね。休憩なり、水分補給を取らないとバテるって。無視して日射病になったのに。目覚て直ぐに『腹減った』って、心配した僕らの身にもなってみろ」

「だって、遊びたかったんだよ。それに、元気がないときこそ、肉食わなきゃ。肉」

「肉って。まだ、本調子じゃないんだぞ。消化にいいものにしろ」

「えぇ〜」

 明らかに不満ありげな顔だ。まだ、顔はうっすらと赤いが、これだけ軽口が叩けるのなら大丈夫だな。