急いで着替えて、レジャーシートを敷いた場所へ戻る。

 その場所に2人の姿はなかった。僕が来るまで動かないでと釘を刺しておいたのに。

 辺りを見回すと、暦さんが視界に入った。

 何故か龍也の姿は日なく、彼女は大学生くらいの男たちに絡まれていた。

 即座に暦さんへ駆け寄った。

「彼女に何か用ですか?」

 僕は大学生から庇うように、暦さんを背後に隠す。

「ちぇっ。彼氏連れか。行こうぜ」

 大学生たちはガッカリした様子で離れていく。

 僕は遠くへ去っていく彼らに安堵し、後ろの暦さんに振り返る。

「暦さん。大丈夫?」

 彼女は顔を上げ、「あんまり覚えていないけど、前にも似たようなことがあった気がする」と顔を綻ばせる。

 学校で3年生とその取り巻きたちに絡まれたときのことを言っているんだ。

 あの出来事は僕らが友誼を結ぶきっかけとなった。朧げなものだが、物事を忘れがちな彼女が記憶してくれたことが嬉しい。

 人を好きになると、ホンワカとした穏やかな気持ちにもなるんだ。

 胸が和らいでいることに感慨深くなっていると、龍也が声をかけながら駆け寄って来た。

「暦ちゃーん。帽子あったよー」

 何か言っていたが、僕は龍也が間合いに入ってくると矢庭に頭を拳で殴った。

 頭部の痛みを手で抑えながらしゃがむ。

 生理的に涙を流す龍也を見下ろしながら、「ちゃんと見るって言ったのは、どこのどいつだ」とハスキーボイスを効かせた。

「暦ちゃんの帽子が風に飛ばされて、取りに行ってたんだ。仕方ないだろ」

 弁明するが、「問答無用」と頭頂部を押さえ付ける。

 今回は運が良かったが、暦さんに万が一のことがあったと考えると不安に掻き立てられる。

 まだまだ叱飛ばしたかったが、暦さんが間に入ってきて僕を宥める姿に気が削がれた。

「お前が離れている間に、男が言い寄って来たんだ。僕がどうしてもいられないときは、お前が絶対目を離すな」

 最後に幾ばくか注意をすると、龍也は項垂れた。

「ごめんね。暦ちゃん」

「何で謝るの?」

 罪悪感でへこみがちになった龍也に、僕まで罪悪感に苛まれる。理由があったんだし、最後の一言は余計だったかも。

 でも、謝ったら余計に負い目を感じそうだ。気分を切り替えることに専念しよう。

「ビーチボールで遊ばないか?」

 簡素にそう言うと、龍也も暦さんを目を輝かせる。ビーチボールの一言でこんなにも反応を示す2人がおかしかった。