翌朝、家の門の前で待っていると何度か目にしたリムジンが来た。いつ見てもピカピカで清白としている。

「歩様ですよね。おはようございます」

「おはようございます」

 いつもはSPの人が運転しているのに、今日は使用人らしき人がリムジンから出てきた。

 怪訝に思いながら中を覗くと、既に暦さんと龍也が乗っている。

「歩。おはよう」

「久しぶりだねー」

 2人に挨拶をして、乗り込む。

 より疑問を抱いた。リムジンには運転手と僕ら以外人が乗っていない。彼女の専属SPが2、3人いるはずなのに。

 思い切って運転手に聞いてみると、暦さんたっての希望で今日SPは連れていないそうだ。

「前から友だちと水入らずで遊びに出かけたかったんだ」

「大丈夫なの?そんなことして」

 彼女の身の安否を心配したが、「お嬢様にはいつものように発信器と盗聴器を所持してもらっています。それに歩さんがいるから安心だと旦那様が」と返された。

 運転手の言葉に、知らない内に暦さんのお父さんに高く評価されていたことに驚いた。

「発信機と盗聴器ってスパイ映画っぽい」

 愚鈍な龍也な発言に呆れる。

 くすくすと笑う暦さんの声に彼女の存在を意識する。

 会うまで待ち遠しさが先走っていたが、いざ会うと緊張して息が詰まってしまう。

 隣に座る龍也は、押し黙った僕と彼女を見てニヤつく。

 どつきたいところだが、他人様の車の中で騒ぐのは無作法の上に暦さんの前だからなおのことできない。

 早く目的地に着くことを祈りながら車窓を眺める。