「やっぱりここにいたか」

 校舎裏のベンチに龍也は座っていた。ここはあいつのサボり場で、教室にいないときはよく利用している。

 午後は校舎の影になってかなり涼しい。

「歩に裁かれそうだから、ここまで逃げていたけど。結局見つかっちまったかー」

 走って来たのだろう。息を荒くしている。きっと僕が風無さ…暦さんと話し終えた直後にベンチへ向かったんだ。

 龍也は本当に走るのが速い。ほぼ同じタイミングで向かったのに、来る道中こいつの後ろ姿が見えなかった。

「逃げたかったら走り続けたらどうだ。姿をくらましたって、お前の隠れる場所を見つけるなんて造作もないんだ。まあ、走ったら走ったで、後日生徒会室でお説教だがな」

「じゃあ、逃げたって変わらねーじゃん」

 不貞腐れてベンチ沿って背中を反らす。

 僕はベンチの背後に立ち、上方へ向けられ無防備になった額にチョップを入れた。

「痛いぞー」

「手加減しただろ。寧ろこの程度で済ませたことに感謝しろ」

「そりゃねーぞ。誰のお陰で進展したと思っているんだ」

 間違いなく暦さんとのことを言っている。

 龍也がいなかったら最近の彼女とぎこちなさ(勝手に僕が避けたいだけ)は解消されなかった。好きだって自覚がないまま終わっていた可能性もある。

 でも、タイミングに問題がある!よりによってクラスメイトのある前で!

 友達までなら周囲に見られようと何とも思わなかったが、彼女に好意を抱いてしまったら別だ。周囲に自分の恋愛模様をさらけ出す何て赤恥以外の何ものでもない。

 さっきの僕の言動でクラス全員僕の心情を察しただろう。

 思い返すと龍也の苛立ちが再び限界点まで登った。ベンチごと龍也を蹴り付ける。流石にベンチは転倒しなかったが、蹴った振動で龍也は転げ落ちた。

「ちょっ、暴力反対!しかも生徒会役員が学校の備品を蹴っていいわけ!」

「何か言った」

 ドスの効いた声に怯んだ龍也は、ようやく大人しくなった。

 まだ気持ちが収まらないが、この辺にしといてやろう。感謝している部分も少なからずはあるからな。