放課後、生徒会役員の仕事を終わらせてから、下校時間ギリギリまで図書室で勉強をしていた。本当は、塾や予備校に通いたいが、どうしてもそれを許さない人がいる。

「ただいま。母さん」

「歩、おかえりなさい。今日はお父さん早く帰ってくるけど、夕食どうする?」

 いつも父さんの仕事が終わるのは午前様。今日は珍しく僕より早かった。

「自分の部屋で食べる。勉強もしたいから」

 母さんは、僕のことを気遣って、一緒に夕食をとることを強制しない。

 2階に上がろうとしていると、父親が帰ってきた。

「貴方...おかえりなさい」

 僕がまだいるところに父さんが来たから、母さんは憂えていた。

「ただいま。歩も今帰ったのか。学校でどれだけ勉強しても、認めたりはしないからな。夕食のついでにそのことで話そうと」

 父さんはいつもこうだ。たまに顔を鉢合わせようもんなら、僕の将来についての話しかしない。

「夕食は自分の部屋でする。話も聞かないから」

 父さんが小言を言ってきたが、無視して2階の自室に入った。鞄から勉強道具を取り出し、机に座り勉強を始める。

 僕がこんなに学業に励む理由は、父さんにある。父さんは大学病院で医師をしていている。多忙で家にはほとんど居なかったが、医師という仕事に対して遮二無二に働く後ろ姿を見る内に僕も自然と医者を目指すようになった。父も最初は同じ職業を目指してくれたことを喜んでくれたが、それは長く続かなかった。

 小3のときに、宿題の作文で将来の夢について書くこととなった。自分の机で書いていると、横から父さんが覗き込んで作文を破り捨てられた。それが始まりだった。

 医者になることを頑なに反対するようになり、現在も医大に入ることを同意せず、塾や予備校もある程度野成績があるから通う必要はないと拒否してくる。

 だからと言って、諦める僕ではない。独学ながらも勉強一筋に励み、テストは毎回90点以上。ずるい考えかもしれないが、生徒会役員になったのも内申点を上げて少しでも医大の入試に合格しやすくするため。医学の知識も、毎月の小遣いを叩いて買った医学書を読み漁り続けてきた。

 認められなくてもいい。それよりも、医者になる夢を否定する父親を見返してやることが僕の目的だ。

 いつの日か絶対に医者になって、病院で再開した父さんにしたり顔でも挨拶してやる。