7月上旬。日差しが首裏を焼きつける強さも増してきた。

 暑さに項垂れそうになるが、気を緩めるわけにはいかない。

 来週には前期の期末テストが控えている。

 彼女と友人になったからって、対抗心が消え失せたわけではない。

 今度こそ勝つぞと人気のない廊下で意気込んでいると、龍也が声をかけてきた。

「歩、いや歩様。お願いです。勉強を教えてください」

 このような台詞は何度も聞いたが、少し時間が早い。いつもはテスト後の補習のときに僕を頼るのに。

「どうしたんだ?テスト前から。ようやくテスト本番でまともな点取る気になったのか?」

「取らざるおえない状況になっちままったんだ」

 龍也は青ざめた顔で「今回1つでも赤点取ったら姉ちゃんに小遣い没収される…」と嘆いた。

 それを聞いて納得がいった。

 龍也の家は父子家庭で母親がいない分、龍也のお姉さんが家のことを仕切っている。テストの後龍也はお姉さんにとっちめられるのは恒例だが、それでも改善しない龍也に業を煮やして強硬強硬手段に出たようだ。

「頼む。このままじゃ、今年の俺の夏休みは無一文だ。何とかしてくれ」

 両手を僕の目の前で合わせて、頭を下げて懇願する。だが、僕は無慈悲に「無理」と突っぱねる。

「僕も自分のテストでいっぱいなんだ。諦めて」

 僕は要領の良い方ではない。生徒会の仕事だってあるのに、テスト期間中に他人の勉強まで見られない。

 龍也もそれをわかっているから、これまでテスト前に頼んでからことはなかったが、今回はそうも言ってられないほど切羽詰まっているようだ。

「そこを何とか」

 今度は床に手を着か、額を擦り付ける。

 流石にここまで惨めたらしくお願いされると、同情してします。それに、一応は親友だしな。

 だが、テストまで時間があと5日。手を貸そうか考いあぐえる。

 僕がいつまでも肯定的な返事をしないから、龍也は「もういいよ!」と声を荒げた。

 逆ギレされてもと考えていると、「歩が勉強見てくれないなら、歩と風無さんが付き合ってるってクラス中にバラしてやる」とほざいた。

「⁉︎」

 予想だにしない発言に動揺する。今は周りに誰もいないからいいが、下手な発言をして噂になったらどうするんだ。

「なっ、何言ってんだ。そんな口から出まかせ」

「嘘じゃないだろ。いつも隣にいるからわかるけど、バレバレだって。歩、よく風無さんのこと見てるし、放課後もデートなんかしちゃって。ていうか、俺以外も気づいているやつ多いと思うぞ。人前だと避けているけど、けっこう一緒いるところ見たって話題になってんだぞ」

 人前なのを意識していたのは風無さんの方だが、たまに一緒いるだけでそんな嘘になっていただなんて…

「だから、違って僕と風無さんは「私が何?」

 名前を呼ばれたことに反応して、風無さんが声をかけてきた。

「風無さん。丁度良いところに。お願い、君からも俺の勉強を見てくれるように頼んで」

 気安く彼女に話しかけていることに、不可解に胸の奥がざわつく。

 更に追い討ちをかけるように「勉強教えてほしいなら、私がやろっか?」と彼女が持ちかけてきた。

「マジで!こんなかわいい子に教えてもらえるなんてラッ、むぐ…」

 あからさまに喜ぶ龍也の口を塞いだ。

「悪いけど、こいつの面倒は昔から僕が見ることになっているから」

 そのまま龍也を引きずって「風無さん。気遣いありがとう。じゃあまた」とその場を離れた。