帰りのホームルームが終わると、龍也は真っ先に僕の方へやってきた。

「じゃあ、カラオケでも行く?」

 カラオケか…最近ずっとやってなかったけど、歌えるかな?と考えていたら、龍也とは別の手が僕の腕を持ち上げて立たせる。

「風無さん!どうしたの?」

 立たせた人物を確認すると、僕の心臓は掴まれている腕と同様に鷲掴まれたような感覚に陥る。

 人前だと話しかけてもこないのにこうやって立たせるなんてどうしたんだ?

「ごめんね。この子は私が連れて行くから」

 そのまま僕を腕を引っ張って教室を出る。後ろから龍也の野次が聞こえてくるが、僕の脳内は風無さんで埋め尽くされて放置していた。

 校門前にはリムジンが停車しており、以前と同様にされるがまま乗せられる。

「いきなりどうしたの?」

「あれ?何だったけ?」

 風無さんはノートをパラパラめくり、「あっ、そうだった。今日、元気なさそうだから、元気付けたくて」と答えた。

 僕は一瞬、息を止めた。

 こう見えて彼女は記憶障害を持ってから、自分のことでもいっぱいいっぱいのはずだ。一緒にいる機会が増えて、時たま今ここに自分がいる理由すら忘れてしまい頭を抱えている姿を見る。

 なのに、彼女は他人である僕の異変を察知して、気遣ってくれている。