何も見つからなからなかったが、あと5分ほどで次の授業が始まるため教室へ向かう。

 すると、校舎から4人生徒が出てきた。1人は花壇を荒らした3年、他2人はその取り巻き。そして、その3人に取り囲まれているのは風無さんだった。

 風無さん自身は、普段通りの大して気に留めている様子はないが、このままいくと間違いなく先輩たちに酷い目に遭わされる。

 僕は彼らの後を追った。彼らとは少し距離があり、校舎の死角に入って見えなくなった。だが、校舎裏に差し掛かると、彼らが再び視界に入った。

「おい、貴様この前はよくもやってくれたな!」

 風無さんは校舎を背に彼らに詰め寄られていた。

「この前っていつのこと?」

「1ヶ月前だよ!1ヶ月前!」

「1ヶ月前ね。ちょっと待って」

 風無さんはポケットから小さな手帳を取り出し、ページを開く。

「待つわけねぇだろうがぁぁぁぁぁーーーーー‼」

 3年の先輩が彼女に拳を振りかざす。

 僕は、風無さんを取り囲む彼らの間から体をねじ込み、彼女の前に立つ。頬に強い衝撃が走り疼く。

 後ろにいる風無さんに怪我はないようだ。彼女は僕の頬の腫れに気づき、目を丸く見開いた。

 先輩たちも僕の登場に驚いて唖然としていたものの、すぐに態勢を整え直す。

「確か2年の生徒会やつだな。後輩に聞いたことあるが、何でも内申点欲しさに立候補したとかなんとか」

「別に先輩には関係ありませんから」

「お前も、後ろの女と負けず劣らず、癪に 障っるなぁ」

 3年の先輩はさらに怒りを募らせる。

「おい!お前ら、少し痛めつけてやれぇ。その間に、俺は後ろの女を教育しているよ」

 ますます、実態が悪化したな。

 あまり問題を起こして内申点を下げたくない僕は、彼女を連れて退避するのが得策と判断する。

 風無さんのの手を引こうとした瞬間、僕の手は叩き落とされた。畳み掛けるように床に押さえつけられた。

「⁉」

 突然の出来事に目を剥くと、黒いスーツとサングラスの集団に取り囲まれていた。さっぱり状況が飲み込めないため、ただただ黙ることしかできない。

「こら!あなたたち!その人は悪くないわ!すぐに離しなさい!」

 視界の隅で風無さんが黒服集団に声を荒げた。黒服集団は慌てふためき僕を抑える手を解いた。

 体を起すと、僕らに危害を加えようとしていた先輩たちも取り押さえられていた。

 状況ができずにいると、風無さんと一瞬に黒服たちに連れていかれた。

 学校の裏に泊まっていた黒いリムジンに乗せられて、ようやく我に帰る。

「えっと…これは、どういう?」

 隣に座った風無さんに訊ねる。

「これから私の家に行くよ」

「え⁉な、何で?」

「何って、助けてくれたお礼と、ガードマンが貴方のこともあの不良たちの仲間だと勘違いして失礼なことしたからそのお詫び」

「いや、今日はまだ授業が残っているし」

「それなら大丈夫なはず。私の家の人があとで先生に説明してくれるから、これからおさぼりすることはうやむやになるよ」

 全然、大丈夫じゃないじゃないか⁉うやむやになるってことは、不正をしているってことだろ?そんなことが堂々とできるなんて彼女はいったい?

「やっぱり戻るよ。ズルなんかしてたら、僕の良心が痛む」

「へぇー。君は真面目なんだねー」

 あれ?彼女は前にも同じことを言わなかったっけ?だけど、今日初めて知った風に聞こえる。

 その後も学校へ戻るように促すが、彼女は相手にせず黙々とさっきも出したノートに何かを書いていた。