死んだ魚のような目って、
そんな例え方は変だと思っていたんだけれど、
あれはどうやら、的確な例えだったんだと気付いた。


だって、鏡に映る私の瞳は、
まさに「死んだ魚のような目」だったから。





高校に入学した時に、入学祝で
お父さんに買ってもらった鏡は、
何度も落としたせいで傷がついてしまっている。


そんなみっともない鏡に自分を映すと、
なんだか老けて見えるし、
嫌なところばかりに目がいってしまう。



こんなはずじゃなかったのに、
と嘆いてしまうのが嫌で、


最近はその鏡に自ら傷を足してしまう癖がついた。





床頭台に鏡を置いて、
窓の傍まで歩いて外を覗くと、
下の方に桜の木が見える。


桜の季節が今年もやってきた。


季節は自分が望まなくても、
当たり前にやってくるものだけど、



私はあと何回、
桜を見ることが出来るのだろうか。





「……早く楽になりたい」




その「死んだ魚のような目」で桜を見下ろすと、
本来桃色のそれは黒く濁って見える。


目の病気とかではないけれど、
私の世界には随分前から色がない。


モノクロの古い写真みたいに、色がついていない。


きっとそれは、私が生きることを諦めているからかもしれない。


ああ、こんな世界、ぶっ壊れればいいのに……。