「行ってらっしゃい」

蘭の頭にふわりと手が乗せられる。藍子に頭を撫でられたのだ。藍子の顔は優しい微笑みで、蘭の胸がギュッと温かくなる。

「行ってきます」

蘭はそう言い、駆流と共に家を出る。図書館は蘭の家から歩いて十分ほどのところにある。

「今日も暑いな〜。おやつにかき氷でも作ろうか。でもスイカもいいなぁ」

駆流の嬉しそうな横顔を蘭は見つめる。駆流も蘭を見つめ、藍子がしたように蘭の頭を優しく撫でた。

「十二時くらいになったらここにいること!お父さんはここで待ってるからな。ちゃんと小説を借りて来るんだぞ」

「わかった」

駆流の後ろ姿を見つめ、蘭は図書館の中へと入る。図書館の中はクーラーが効いて涼しい。蘭は汗をハンカチで拭き、児童書のコーナーを見て回ることにした。

両親と永遠の別れになるとは、この時の蘭には想像することすらできなかった。

児童書のコーナーには、可愛らしい絵のファンタジー小説や恋愛小説などが並んでいる。蘭は一つ一つを手に取ってみたものの、読みたいとは思えなかった。