あなたの左手、 私の右手。

「疲れただろ?」
「いえ。まだ初日なので。」
夕方になり仕事の方づけをしながら先輩と情報があふれているフロアのホワイトボードの前に向かった。このボードの情報を朝と夕方にチェックするように言われたばかりの私。
でもこの膨大な情報の中から必要な情報を読み取るのはまだ難しくて、先輩がついてきてくれた。

今日一日私にいろいろと教えるために、先輩の仕事はストップしてしまっている。
申し訳ないという気持ちと、だからこそ早くいろいろと覚えたいと思う気持ちが交錯する。

「俺、かなりストイックに仕事するタイプだから、苦労すると思う。」
「大丈夫です!体力には自信がありますから」
「赤名って今何歳?」
「24歳です」
「じゃあ、ほかのどこかで社会人経験ある?それとも大学院とか?」
先輩の言葉に、返事に少し詰まってしまう。仕事をしなかったわけじゃない。できなかった理由がある。その理由を先輩に言うべきか迷っていると先輩が困ったような目を私に向けた。
「あー、年齢聞いたりしてごめんな。俺は28。自分の年齢も言わずに悪いな。」
「いえ!違うんです。年齢とかじゃなくて。仕事をしなかったのには理由があるんです。でもその理由を話をするには少し勇気がいるというか。」
正直に言った私に先輩は今日だけで何度も見せてくれる無邪気な笑顔を再び見せてくれた。