「たとえここを離れても両親との想いでもおばあちゃんとの思い出もちゃんとあるし。思い出と一緒に生きていけるから。」
「・・・」
「それに、先輩にいつまでもここにいていただくわけにもいかないので。」
「俺はいいんだよ。居たくているんだから。」
先輩はそう言ってくれるとわかっていた。でも、仕事で疲れているのに、自分の家に帰らずにいつまでも他人の家に寝泊まりして、私に気まで遣う先輩に申し訳なくて仕方ない。

「前に進みたいんです。ちゃんと自分の足で。今度こそ。じゃないとおばあちゃんに叱られちゃうから。」
精一杯の微笑みを向けると、先輩は席から立ち上がり私の方に近づいた。

隣に立ち、両手を広げる。
「え?」
「来い。」
「え?」
「いいから、来い。」
両手を広げる先輩に戸惑いながらも立ち上がると、先輩は大きな一歩で私のすぐ前に立った。