「両親が亡くなった日のことを思い出そうとしても、私、思いだせなくて。何度も何度も考えても、思いだせなくて。」
「うん」
「人の命って・・・儚いなって・・・」
「うん」
「もっと・・・してあげたいことたくさん・・・たくさんあったのに・・・」

彼女は肩を震わせて泣き始めた。

ずっと泣いていなかった彼女から流れ始めた涙はあまりにきれいで・・・悲しみも苦しみも入り混じっているはずなのに、心の奥から流れているのだろうと思った。

彼女のきれいな心の中からあふれ出す涙は、あたたかくて、きれいだ・・・

「だからこそ、のこされた者はちゃんと生きることに向き合わないとならない。俺はそう思う。」
失った命を後悔しても、取り戻そうとあがいてもどうにもならないことがある。
ならば、失った命の分まで命に向き合って後悔の無いように生きる。

それがのこされた人の唯一のこされたできることなのだろうと、今になって思う。