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「ただいまー。」

私が帰ってくると姉がリビングにいた。

「おかえりー。」と声が聞こえる。
今日は塾がある日だから、早く部活を抜けて帰ってきたのだろう。

「ねえ、ねーちゃん。私さ。初恋(多分)を経験したんだけど、相手に好きな人がいた。」

「ふうん。
…で?諦めると?」

「え?うん。」

だって諦める以外の選択肢ないよ?
そんな私の返答に姉は、

「甘い!甘すぎる!この今食べてるチョコレートより甘くってよ!」

私を指差し思い切り怒鳴った。

「あのね、恋ってのは、諦めちゃいけないの!むしろ振り向いてもらえるまで押して押して押しまくるの!諦めるのが一番ありえないの!」

そう捲し立てた。多分自分でも何言ってるのかよくわかってないんだろうな…冷静な私はそう思っているが、冷静じゃない自分は驚きたじろいでいた。

「とりあえず、梨花!あんたはまずその気持ちが恋かどうなのかを見極めなさい。」

姉は命令口調で私に言った。

「…具体的にはどうするの?」

私は突っ込むのもめんどくさくなり、聞いてみる。すると姉は

「そんなの、何気ない一瞬にドキッとしたら恋よ!」

ドヤ顔で言った。

…ん?待って。何気ない一瞬にドキドキ?

それなら、何度かあったかも。
でも、ほんとに恋なのかなぁ?

「まあ、私は今から、塾だから、じゃあね!」

…嵐のように行ってしまった姉を見送りながら、私はソファに座った。

「恋…ねぇ。」

私の呟きは誰にも届かぬまま、宙に吸い込まれた。