階段までたどり着くと、そこには、弥生くんがいた。
あれ?弥生くん?なんでいるんだろう?と思った。
そんな私のことを察したのか、弥生くんは、

「…今日帰り一人なんだよね。西窪と一緒に帰りたいな、って思ってさ。
だから、英和辞書、西窪が運んでた分も持って行っといた。」

と説明した。
そして、ほら、帰ろ?と言う弥生くん。
胸のあたりが、またどきりとした。

でも、私は、弓道部の先輩と弥生くんと恋人みたいなことはしないと、約束してしまっているわけで…。

なんて返事をしようか。そのまま断るのは感じ悪いだろうし…。
かといって、一緒に帰ってるのを見られたら本末転倒だし…。

「…もしかしてだけど、今日、言質取られたこと気にしてる?
これは、俺がそうしたいからそうしてるだけ。西窪は堂々としてればいいんだよ。
それに、もし何か言われたとしても、俺が言い返してやるからさ。」

顔が近い。戸惑ってしまう。

…ん?でも待って。

「…なんで、言質とられたの知ってるの?弥生くん。」

私の記憶が正しければ、弥生くんは私が言質を取られていたとき、寝ていたはずだ。

「ああ、あれね。タヌキ寝入り。」

「え!?つまり起きてたってこと?」

「うん。」

「…その、どうしてそんなことを?」

私が聞くと、弥生くんは天使のような微笑みで

「…二人きりになったら少しいたずらしようかななんて思ってたから?」

と言った。
普段は小悪魔なのに…。

また胸がどきりとした。

「ま、とりあえず帰ろ。」

弥生くんに言われるがまま私は、うん、と頷いた。
なんでだか顔が熱かった。