土曜日にもケータイの着信音が響いた。

「誰から?」思わず聞いてしまった。

「この間会った同級生のヤツでパソコン買いたいからアドバイス欲しいって、午前中は七海と買い物一緒に行くから、 午後は行ってきていいか?」

「うーん…… いいよ …でも早く帰って来てね、夕食作って待ってるから」

「わかった、ありがとう!早速返事しておくよ」と楽しそうに返信してる。

「彰くんと行きたいカフェがあるんだけど、明日は行ける?」

「悪い、明日は一日中フットサルだ」

‘’ やっぱりカフェには行けないか…行きたかったなー‘’

 午前中の買い物も慌ただしくなりそうで、一人で行こうと思う。

「ねぇ彰くん 、今日は一緒に買い物行かなくていいよ」

「いいのか?重いものだってあるだろ?」

「今日は重いもの買わなくても平気だから、あとで一人で行ってくるよ」

「悪いな」

昼食は彰くんのお昼の定番 ラーメンとご飯のセットを用意した。手抜きで申し訳ないが彰くんが好きなので、楽をさせてもらう。

「じゃあ、行ってくるな」

「うん、いってらっしゃい」
 ギュッて抱き締めてキスをする。いつまでしてくれるかな?
 
 夕食のメニューは日頃作れないおかずにした。

 メインも焼くだけにして彰くんが帰ったら直ぐに出来上がるよう支度する。

 でも肝心の彰くんが帰ってこない。アドバイスってそんなに時間がかかるの?

 女の人と会ってるの?心のモヤモヤがどんどん膨らんでいく。



「ただいま、悪い遅くなって…」

 悪いと言ってる割には反省の色はない軽い感じで帰って来た。

 テーブルの上を見て思い出したのか「あっ」と苦い顔をしている。忘れてたの?

「食べてきたの?」

「ああ ごめん」

「いいよ、食べて来たのなら仕方ないよ、 お風呂入れば?」

「そうだな、汗をかいたし入ってくる」

 彰くんが逃げるように通り過ぎる時に甘い香りが漂う。凍るようなドキドキが止まらない。

彰くんがお風呂に入っている間に、一人でご飯を食べる。

 メインは今更焼く気になれず作っていたおかずでご飯を食べるが味がしない 。

 殆んど食べられず 冷蔵庫へ片付けた。

結局帰って来たのは20時で、夕食まで食べてきた。

 私との約束は何だと思っているのか?私の事忘れてたのか?先日と一緒だ。

 それにあの香り…なんなの!

趣味の手芸に逃げるように没頭しようとしたが、無理だった。



「明日は予定通りフットサルだから」

お風呂から出てきた彰くんが、顔色を窺うように言っている。

「どうぞ」と一言だけ返す。

 聞くのが怖いのにフッと口から出た言葉。

「何を食べてきたの?」

「カレーライスだよ」答えながら私の隣に座った。

「彰くんが外食でカレーライスなんて珍しいね」

「あっ、いや、オレがパソコン設定してたら作っててさ…」

「何それ、どういう事?アドバイスって男友達ではなかったの?」

「女だけど何もないから!ただの同級生で同窓会の時からパソコン買うのに相談されていて、買ったはいいけど、一人で設置出来ないようだったから、手伝ったんだよ。そうしたらカレーライス作っててさ、悪いから食べてきた」

 あぁやはり女の人と会っていたんだね。理由なんてどうでもよかった。会っている事実が私を締め付けた。目に涙が滲む。

「………悪いって何?…『作って待ってる』って言ったよね?私には悪くないの?」

 だから甘い香りがしてたんだ。胸が張り裂けそうに痛む。悔しくて下唇を噛んだ。


「だから、ごめんって」

「ねぇ他に誰かいたの?」

「他って?」

「だって部屋まで行ったんでしょう?二人だけだったの?」

‘’居たって言ってよ!‘’祈りは通じない。

「二人だった。ごめん。でもマジに何もないから!」

 裏切られた気分だった。

「…………」なんて答えればいいんだろう。これ以上話せば涙を堪えられない。

「お風呂入ってくるね」そう言い残して浴室へ向かった。

「もう寝るけど…」後ろから聞こえる。

「おやすみ」
 遮るようにピシャリと言う。勝手にどうぞと思う。全然私のことなんて考えてない。なんでそんな軽率な事出来るの?

「おやすみ」

 こんな状況でよく寝れると思う。それだけ何もないから気にしていないという事なの?

 湯船に浸かりながら考えた。涙は止まりそうにない。

 私の心が狭いのか?恋愛感情が無くても他の女の部屋へ入るなんて理解出来ない。

 誰かと一緒なら兎も角、一人で行ってご飯まで食べてくる?私と約束していたのに約束した事まで忘れてた。

 この間の飲み会と言っていた時もあの匂いがした。本当に飲み会だったの?

 もうヤダ、ヤダよう…『何もない』と言っていたけど、何もなくても嫌だった。

 赤ちゃんごめんね…悲しんでごめんね…
負担掛けちゃうよね…強くならないとね。

 散々泣いてお風呂から出た。

 彰くんは寝たかな?まだ寝室へは行きたくない。