目が覚めると彰くんの腕の中だった。
私が馴染んだ腕の中、また涙が溢れるが急いで拭う。
「うっ…ん…」
「おはよう、彰くん」
「おはよう」
「チュッ」とキスされた。
「何時だ?」
「何時だろう?」
時計を見ると8時だった。よく寝たと思った。ここは客室で彰くんは一緒に布団で寝た事に気付く。心が少しだけ温かくなる。
「何か食べれるか?」
「お義母さんがくれたフルーツがあるから、それとヨーグルトにしようかな」
「テーブルで食べるか?それとも運ぼうか?」
「テーブルへ行くよ」
「無理するなよ」
「うん」
ぶどうとヨーグルトを頂いた。フルーツは他にも梨やりんごがあったが、彰くんに頼んだら自分の方がヒヤヒヤしそうなのでやめておく。
彰くんは自分で用意した、冷凍ご飯とインスタントのお味噌汁と生卵だった。
ぶどうとヨーグルトも食べていた。
まぁ上出来だろう。
食べ終わり、私は客間の布団の中へ戻る。
しばらくして片付けが終わったのか、彰くんも客間に入ってきた。
「彰くん、どうしたの?」
「七海の側に居るよ」
「私は一人でも大丈夫だよ、どうしたの?優しいね」
「いつもだろ?」
「そう?ありがと。ねぇ、買い物へ行って来てよ?」
「買い物?」
「彰くんの昼食と夕食と明日の分、好きなパンとかさ」
「七海は何かリクエストないの?」
「うどんがいいかな?コンビニかカップラーメンのでもいいよ」
「わかった、行ってくるよ」
一人になりたくて、彰くんには外出するよう勧めた。赤ちゃんのことを想い偲ぶことを自分に許す。
リビングへ行きテレビをつける。これで泣いていてもテレビのせいに出来る。
お昼には彰くんが買ってきたプチパンを1つ頂いた。
午後はリビングのソファーで過ごす。
客間へ行ってもきっと彰くんは来るだろう。ならリビングでも同じだし、彰くんも過ごしやすいだろう。
15時になり、彰くんが得意気にプリンアラモードを出してきた。
びっくりした。妊娠をお祝いするために買った時の事を思い出した。
涙が次々と溢れ出す。
「どうした!」彰くんが抱き締めてくれる。
「ご… めん … な …さい ごめん……なさい」赤ちゃんに謝る。彰くんも伝えられなくてごめんなさい。
「七海?本当にどうしたんた?話してくれないか?」
私は首を横に振る事しか彰くんに伝えられなかった。
彰くんは抱き締めて頭に繰り返しキスしてくれた。
気持ちが落ち着いて来たので、シャワーを浴びる事にした。
シャワーを浴びながら冷静になっていく。
自分で自分に問いかける。
”七海?これからも彰くんのケータイの着信音に耐えられる?”
”耐えられない”
”誰かと会っているの耐えられる?
”耐えられない”
”約束を忘れる人と生活出来る?”
”七海の存在を忘れる人と一緒に居られるの?”
”一緒には居られない”
そうだよ、一緒には居られない、
これ以上彰くんと居られないなら、
プリンアラモードを二人で食べるのは最後になる。
彰くんには食べる意味などないだろう。でも、赤ちゃんにとってはパパになる。
赤ちゃんが私のお腹にいてくれて、幸せをくれた。今は天国へ行ってしまったけれど、確かに赤ちゃんは居たんだ。
プリンアラモードは赤ちゃんと私の特別な食べ物だね。
「彰くん、待たせてごめんね。さっきの
プリンアラモード食べよ」
「えっ!」と驚いている。そうなるよね。
テーブルの上にないので冷蔵庫をから取り出す。
「オレがやるよ」
「大丈夫だよ」
「飲み物は何にする?オレはコーヒーにするけど七海は?」
「私は牛乳にする」もうカフェインは関係ないが、今日はまだこだわりたい。
準備が整い2人で席につく。
「彰くん、買って来てくれてありがとう いただきます」
” 幸せを ありがとう” 赤ちゃんと彰くんに向けて心の中でつぶやいた。
「七海?こんな時に悪いが明日休日出勤しても大丈夫か?」
「大丈夫だよ」
「母さんに来てもらうか?」
「ううん 一人で平気」
今日は寝室のベッドで眠る。あと何回このベッドで寝るだろう。この腕の中の居心地を出来るなら離したくなかった。
明日、実家へ帰ろう。一週間は会社を休むことになっている。その間だけでも
ケータイの着信音から逃れたい。
その先はまた決めればいい。