恥ずかしそうにそう言うサユリの声はオレには聞き取れなかった。

そして彼女はもう一度言う。


「歩いて帰りたい。その方が長い時間一緒にいられるし。たくさんしゃべれるから」


やばっ……。

思わず緩みそうになる口元を片手で覆った。


可愛いすぎやろ……。

なんなんだ。

この男心をくすぐる発言は。


オレは自転車を手で押してゆっくりと歩き出した。

そのすぐ横をサユリがついてくる。


途中、オレ達を抜いていくサッカー部のやつらにひやかされたが、「うるせー」なんてかわしながらも、内心かなり舞い上がっていた。


ああ……オレたち付き合ってるんだな。

なんて実感したりして。



途中、オレ達は川沿いの堤防を歩いていた。

5月の優しい風に乗って、土と草の匂いがする。

もう夕方という時刻だけど、太陽はまだその姿を主張していて、オレ達二人と自転車の長い影を道に描いている。

その並んだ影がほんの少しずれたと思って斜め後ろを振り返るとサユリが足を止めていた。


「どしたん?」


――キィー


自転車にブレーキをかけてオレも立ち止まる。


サユリはしゃがみこんで足元に転がっていた野球ボールを拾い上げた。

そしてにっこり微笑んでこう言った。




「キャッチボール、やらへん?」