最悪のパターンを想像して、思わず出てきそうになった言葉をオレは飲み込んだ。

その言葉だけは言っちゃいけない気がしたから。

だけど、カナコにはオレの考えが伝わったようだった。

カナコは慌てて首を横に振る。


「ううん。命は助かったって……。でも、事故にあって以来、ずっと意識が戻らへんねんて……」


「ずっと? 今も? 3年間ずっと?」


オレは動揺しすぎて、自分でも何言ってるかわからなくなってきた。



あの時、軽やかにオレの前から去って行った北野典子。

あんなに元気そうだったのに。

あの後、引っ越して……事故に遭ったって?

なんだか、現実感がない。

それでも、命が助かったということだけで、オレの気持ちもほんの少し救われた気がした。


でも。

そっか……。

例え会いに行っても、話すことも、タオルを返すこともできやしない。


「大丈夫か?」


ヤマジが心配そうな顔でオレを覗き込む。


「え? ああ……」


ぼんやりとした頭で応えた。


無意識のうちに握り締めていたストローの袋は、汗ばんだ手のひらの中でグニャグニャと崩れていた。


雨はさっきよりひどくなって、窓を叩きつけるような音がオレの心音と重なっているような気がした。