きみにしかかけない魔法



*


「紫奈―、そろそろ出来上がる?」

「え、っと、まだだよ」

「えー、はやくよみたいのになあー」




私の描く漫画を、ほんとうにきらきらとした瞳で見つめてくる水羽くん。

誰かにこんな風に期待されていたことなんてないから、なんだかくすぐったい。



それに、これを描き終えて、水羽くんに渡してしまったら……。



私の気持ちも全部伝わって、この大切な時間が泡のように消えてしまうんじゃないかって、わたし、こわいんだ。




「……水羽くん、もしかして喉、いたい?」

「え?」



突然のわたしの言葉にきょとんとする水羽くん。



「少しだけ声がかすれている気がしたんだけれど、……気のせい、だったかな」



一瞬、驚いたような顔をして。
それから口元に右手を持ってきて、照れたように笑う。



「びっくりした、実は朝からちょっと喉いたくてさー」

「ちょっとまってね、」




ごそごそとスカートのポケットを漁ると、2つぶコロンと飴が出てきた。

絵を描くとき、口の中に何かがあった方がはかどったりするの。