きみにしかかけない魔法



「……誰にでも同じこと言うって」

「っ?」

「それ、本気で言ってるの?」



近すぎる距離のせいで、心臓の音がうるさくて、よく聞こえない。


息を呑んで、水羽くんの言葉の意味を考えようとしたところで、水羽くんがふと何事もなかったかのように離れていく。


物足りない、なんて思っちゃだめだ。

ごまかすように、鉛筆を紙の上に走らせた。



生まれていく物語のヒーローは水羽くんにそっくりで、ヒロインには私の気持ちがたっぷり入っていて。


まるでラブレターを書いているみたい。



完成したら読んでもらうって約束だけれど……、水羽くんは、どう思うかな。



作業を進める私の手元を、物珍しげに見つめたあと、水羽くんが口を開く。




「紫奈ってどうやって物語のストーリー考えてるの?」


「えーと、うーん……、頭の中で登場人物がいっぱい喋ってるの、で、それを描き起こすみたいな感じかなあ。考えるっていうより、うまれてくる、みたいな……」


「へえ。いーな、紫奈の頭の中賑やかで明るくて楽しそう。覗いてみたいな」



こんなに屈託なく、私の世界を明るいと言ってくれるのなんてきみだけだ。



予鈴のチャイム、一日の中で水羽くんと過ごせる唯一の時間が終わる。





ばいばいって手を振って、離れていく水羽くん、きみのことが、泣きたくなるくらい好きだって思ったの。