「水羽くんはかわいいね」
くしゃっとした笑顔も、ふとした仕草も行動も。
いちいち胸の奥のツボをついてくる。きゅんとするの。
「紫奈の方がかわいいよ」
さらっと何でもないように告げられたその言葉に、息がつまるようなドキドキを感じてしまうのは。
抗いようのない熱が頬にのぼってくるのは。
私が、水羽くんのことが好き、水羽くんに恋をしている、そのたしかな証拠なんだと思う。
気づいたらもう好きだったの。
今までは想像でしか描くことのできなかった、ヒロインの恋をする気持ちが、今なら手に取るようにわかる。
ヒロインに自分の気持ちを重ねて、溢れる気持ちがそのまま物語になって。
だけど、浮かれすぎは、きっとよくない。
だって。
「水羽くんは、誰にでも同じこと言うんでしょ……?」
忘れてはいけない、水羽くんは人懐っこいみんなの人気者。
勘違いしてしまうくらい距離が近くても、それは私にだけじゃないもの。
私の言葉を聞いた水羽くん。
珍しく、眉をきゅっと寄せて不機嫌そうな表情を浮かべた。
どうしてそんな顔するんだろう、ときょとんとすると、水羽くんは急に顔の距離をぐっとつめて。
息がふれる距離、さすがにここまで近いのははじめてだった。



