きみにしかかけない魔法



*


水羽くんは宣言どおり、翌日から毎日、昼休みを中庭で過ごすようになった。


ベンチに座り、せかせかと下描きの鉛筆を動かす私。


そのかたわらで、ぼんやりと時間を過ごす水羽くん。たまに、少し会話を交わすくらい。



『あの、退屈じゃない?』


このまえ、気になって尋ねてみたけれど、『ぜーんぜん。むしろ楽しいよ』と返ってきた。


私は水羽くんがいると嬉しいし、水羽くんが何を楽しんでいるのかはわからないけれど、楽しいのなら、よかった。



そうして、水羽くんが傍にいる昼休みも、あたりまえになってきた頃。




「紫奈ってどれくらい、目悪いの?」




かけたメガネ、分厚いレンズのその向こう、水羽くんがふと気になったという風に首を傾げて覗き込んでいる。


水羽くんの投げかけてくる質問は、だいたい前触れがない。


きっと、気になったらすぐに確かめたくなる性分なのだと思う。




「うーん、かなり悪いよ」




試しにメガネを外してみる。

途端に視界全体がすりガラスに覆われたようにぼやけて、滲んだ。霧の中にいるみたい。


この距離でも、水羽くんの姿がはっきりとしないくらいだもん、相当だよ。