きみにしかかけない魔法



「描き終わったら見せてよ」

「え……」

「途中だからだめなんでしょ?」

「うっ」



たしかに、さっきそう言ったのは私だ。

追い討ちをかけるみたいに、「いいよね?」って水羽くんの甘えるような声。



「わ、かりました……」

「やった!」



半ば押し切られる形で頷くと、水羽くんは嬉しそうにゆるゆると頬をゆるめた。


ちょうど、そのタイミングで予鈴のチャイムが鳴り響く。


昼休みが終わる、5分前の合図。



水羽くんと話していたからだろうか、時間が経つのがすごく早く感じた。

じゃあね、と手を振り立ち去ろうとすると、水羽くんにぐい、と引き留められる。



「紫奈、毎日ここに来る?」

「え? うん、昼休みはいつも」

「明日から俺も来てもいい?」



いいも悪いもない。

そもそも中庭は私ひとりのためのものじゃないんだし。



こくり、首を縦に振ると、また嬉しそうに笑った水羽くんが「じゃーまた明日ね」とひらひら手を振って教室の方へ帰っていく。



その背中を名残惜しく見送りながら『明日もまた水羽くんと話せるんだ』とふわふわ、気持ちを浮つかせていた。