余裕なきみにチェリーランド





「もーもはくん!」


がらりと美術室の扉をあける。放課後、いつも以上にわたしは上機嫌だ。

相変わらず私よりも先にここへやってきて、窓際の席で本を読んでいる。今日は太宰治じゃなくて赤川次郎。三毛猫ホームズが面白いのはわかるけれど、返事くらいしてくれたっていいのに。


「桃葉くんー?」

「……」


浮かれ気分の私とは対照的に。

話しかけても無視を決め込んだ桃葉くん。読書にのめり込んでいるときは大抵無視されるけれど、今日はなんとなく期限がわるそう。無表情だけれど、その無表情にとげがある。毎日桃葉くんをモデルに絵を描いているわたしにはわかるのだ。


「ちょっと、無視はよくないよー桃葉くん」

「うるさいな、」

「うるさいのはいつものことでしょ!」

「今日は一段とうるさいよ」

「それは桃葉くんが不機嫌そうにしてるからでしょ」

「なにそれ、そんなことない」

「ウソ。隠しても無駄だよ、桃葉くん。わたしにはわかっちゃうんだからね」


何て言ったって、わたしは桃葉くんの顔ファン兼、専用絵描きなんだから。

その言葉にぐっと言葉を詰まらせて、さらに不機嫌オーラを放つ桃葉くん。珍しいな、こんな風に感情を表に出すこと殆どないのに。といっても、基本無表情だから、きっと桃葉くんの感情はひとに殆ど伝わっていないんだろうけど。