「ごめんね、いきなり」
「ううん、わたしも大きい声だしてごめんなさい……」
「いや、それは俺のせいなんだけどさ!」
「いや、水羽くんのせいでは……」
「ていうか、春咲さん、初対面なのにおれが水羽ってわかるんだ?」
くす、と悪戯っぽくわらう水羽くん。うう、桃葉くんと同じ顔でそんな表情はたまらない。だって桃葉くんは基本無表情なんだもん。
「そりゃあわかります……」
「そういうもん?」
「うーん、最初は確かにまったく見分けがつかなかったけど……こうして見ると意外と全然違うね、桃葉くんと水羽くんって」
桃葉くんはともかく、水羽くんをこんな至近距離で見れることなんてそうそうない! じっと彼の顔を見ていると、水羽くんがけらけらと笑い出した。
「はは、桃葉が最近美術室に通ってるって言ってたからさ、どんな子かと思ったけど」
「え、桃葉くんが私の話を?」
「うん。いい子だね、春咲さん」
「え、」
「きいたとおりだ」
「あ! 水羽―!」
水羽くんの言葉にかぶせて、多目的室の反対側の扉がガラリとあいた。女の子たちだ。人気者はすごいなあと思いつつ、姿を見られたことにやってしまったと焦る。水羽くんは「いきなりごめんね、行って」と私の背中を押した。
強引で自分勝手だなあと思いつつ、きっとこれもわたしが変な誤解をされないようにと気を使ってのことなんだろう。だって、水羽くんはとてもやさしい。桃葉くんと同じだ。
そっと教室を出てそのまま早歩きで自分の教室まで戻る。ふわふわした気持ちだ。だって、桃葉くん、水羽くんに私の話をしていたなんて、そんなの嬉しいに決まってるよ、ばかやろう。



