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「春咲さん」
昼放課。いつもはクラスメイトと教室でお弁当を広げるんだけれど、今日にかぎって忘れてしまって、購買にパンを買いに行ったかえり。
人が少ない廊下で、ふと名前を呼ばれたので振り返る。けれどそこに人はいなくて、思わず首を傾げてしまう。
「春咲さん、ここ!」
ふと、もう一度呼ばれたので辺りを見渡すと・・・・・・すぐ横にあった多目的室からひらひらと手を振っている。そっと教室内を覗くと、ひょっこり桃葉くん……じゃない、水羽くんが顔を出した。
「うわっ、水羽くん?!」
「おっと!」
シー、と。人差し指を唇にあてて教室の扉を閉める水羽くん。咄嗟に口を押さえたわたし。
そっか。女の子に冷たくて口数少ない桃葉くんと違って、人懐っこい水羽くんはとにかく女の子に大人気だ。こんなふうにふたりで話しているところを誰かに見られて噂でもたてられたら、水羽くんのやっかみを買いかねない。
きっと気を使ってくれたんだろうなあ。



