通常運転のその姿をしばらく恨みがましく見つめていたわけだけど、あまりにも桃葉くんが無反応なので、私もしばらくぶりに桃葉くんの絵を描くことにする。

輪郭も、髪の毛の流れ方も、瞳も唇の形も。
やっぱり桃葉くんがいちばんだ。

桃葉くんの絵を描いている瞬間が幸せ。
それは、私にとって、桃葉くんに恋をしていることの何よりの証拠だと思うの、きっと。


本にすっかり夢中だと思っていた桃葉くんがふと口を開く。


「……美術室に来ない間、他の誰かをモデルにしてた?」

「してないよ?私のモデルが務まるのは桃葉くんだけだもん」

「そう、ならいいけど」


ふ、と微笑を浮かべた桃葉くんに未だかつて無い色気を感じてくらりと来る。
その顔、イイ……!

忘れてしまわないうちに、と次々描きこんでいく。
と、そこで、昼休みが終わるチャイムの音。

そうだ、今って昼休みだった……!


「やばいよっ、桃葉くん帰らないと!」


慌てて画材を片そうとすると、桃葉くんがぐいっとその腕を引いた。


「……だめ」

「だ、だめって!昼休みもう終わっちゃう!」

「次の授業さぼればいいよ」

「っ!?桃葉くん、そんなこと言う人じゃないよね!?」


私の知っている桃葉くんは授業をさぼったりなんかしない。
真面目な部類に入る方だ、絶対に。

あたふたする私に、そんなことお構いなし、といった様子の桃葉くん。
やっぱり桃葉くんの方が上手で間違いなかった、余裕がないなんて絶対にウソ!!

桃葉くんの大嘘つき!!