余裕なきみにチェリーランド





「はあー……、桃葉くん……」


廊下を歩きながらも、無意識のうちに桃葉くんのことばかり頭の中を占めている。
思わず、桃葉くんの名前を呟く、と。


「春咲さん?」

「はうっ!?」


いきなり呼び止められて驚いて振り向く、と。


「なんだ、水羽くんか……」

「なんだ、って。桃葉かと思った?」

「や、それはないけど!」

「それはないんだ」


くすくす笑う水羽くん。
うん、その姿はやっぱり桃葉くんとは似ても似つかなくて。
間違えようがないと思う。

だけど。
双子だから、ふとした角度からの表情とか、声とか、どうしてもダブって見えてしまうことはある。そう、少し期待してしまった。紛れもなく水羽くんなのに、桃葉くんをそこに重ねてしまいそうになる。

どこにいても、桃葉くんを見出してしまう、求めてしまっている、そんな自分にほとほと呆れる。



「そうそう、春咲さんにちょっとお知らせがあって」

「え、私に?水羽くんが?」

「うーん。俺からっていうよりー、まあ、ちょっと桃葉に貸し作っとこっかなーって」

「……?」


きょとん、とした私の顔を見て水羽くんが喉のあたりで笑う。
そして。


「桃葉がねー、最近すこぶる機嫌悪いんだよね」