余裕なきみにチェリーランド



極めつけは昨日のことである。
昨日、帰りのHRが終わって教室を出ると、なんと桃葉くんが壁にもたれて立っていたの。桃葉くんと私の教室はそんなに近いというわけではないのに、なんで!?と衝撃を受けつつも、桃葉くんとの接触を避けるべく、そろり、背中を向けようとしたら。


『紡ちゃん』

『ひゃい!?』


まさかの、桃葉くんの方から呼ばれてしまって。驚きのあまり変な声が漏れてしまう。だって、桃葉くんの方から私を引き留めることなんて、ない。

だけど、私は忘れてはいなかった。“引いてみろ”作戦決行中なのだ。


『ああああの!私、急用があるから、ごめんね!ばいばい!』


よし、決まった。よくやった。
名残惜しさを覚えつつ、ぐるんっと後ろを向く。
桃葉くんが、『はー……』と長いため息をついたのが聞こえたような。疲れているのかなあ。


でも、桃葉くん、全然いつも通りだった。
背中を向けたって追いかけてくる様子は微塵もない。


「限界だよ〜!」


桃葉くんに会わないのも話しかけないのも。
それもこれも桃葉くんに振り向いてもらうためなのに!

肝心の桃葉くんが落ちてくれないのでは、ただの拷問でしかない。
うう、雑誌では男の子がそういう生き物だって載っていたけれど、寂しがり屋なのも狩猟本能が掻き立てられるのも、桃葉くんじゃなくて私の方みたいだ。


はー……、と大きく息をついて。


「ちょっと外の空気を吸ってくる!」


気分転換、そうしよう。
むっちゃんに宣言すると。


「はいはい、行ってらっしゃーい」


とものすごくテキトーにお見送りされた。