余裕なきみにチェリーランド





――――と、いうわけで。
“押してダメなら引いてみろ”作戦決行中。

具体的には、桃葉くんと極力会わない、話さない。

むっちゃんが見せてくれた雑誌の記事に『男性は狩猟本能を備えている上に、基本的に寂しがり屋。追われなくなると、自分から追いたくなる生き物』と書いてあったもん。信憑性はビミョーだけれど、試してみる価値はある、と思ったわけだ。

……と、決意を胸にしていたのに。


「もう無理〜!限界!桃葉くんが足りない!」


一週間も保たないうちに、私の方が早くも限界を迎えていた。
桃葉くんに会わないようにすると、かえって桃葉くんのことばかり考えてしまう。

そろそろ心身に異常をきたしそうなの。
三大栄養素、脂質・糖質・タンパク質。私の場合は桃葉くん・桃葉くん・桃葉くんかもしれない。とすると、完全に桃葉くん欠乏症だ。


「限界早くない?」

「な!これでも頑張ったんだよ!?」


ぐでーんと机にへたり込んだ私に冷ややかな視線を向けるむっちゃん。
でもでも、ほんとうに、私はよく頑張っていたの。


まず、放課後、桃葉くんと遭遇しないように美術室に行かないようにした。
もちろん、絵を描くことはやめていないよ。せっかくだから風景画の練習週間と謳って、校舎の色んなところを巡って、切り取って、スケッチブックに収めてみたりして……それは案外有意義で楽しかったかもしれない。ただ、私が描く風景画には無意識に不自然な余白がぽっかり空いてしまう。無意識のうちに私、桃葉くんを景色の中に探してしまう。その度、重症だなあとため息をつくのだ。

それだけではないよ。

廊下で見かけても話しかけずに、遠くから拝んでUターン。これがけっこう精神的にきついのだ。だって、桃葉くんを見かけたら尻尾を振って駆け出したくなっちゃう。尻尾、ないけど。それに、どんなに遠くからでも桃葉くんを見つけてしまえる私の特技が完全に裏目だった。