◇
――――紡ちゃん、紡、つむぐ、ツムグ……。
もごもご、と口の中で唱えてみる。ううん、やっぱり違う気がする。
家に帰ってきて、自室、ベッドの上。
抱き枕代わりのキリンのぬいぐるみをぎゅうぎゅうに抱きしめて転がりながら、桃葉くんのことを思い浮かべる。思い浮かべる、というか思い浮かんでくる。私、暇さえあれば桃葉くんのことばかり考えているなあ。
『ずっといい名前だなって思ってた、つむぐ、って』
聞き慣れたはずの名前、桃葉くんの声がなぞった瞬間、きらめいて星のように弾けた。ちかちかと眩い、あの瞬きをもう一回、と思って何度も自分で桃葉くんの真似をして唱えてみたけれど、上手くいかない。だめだな、あれは桃葉くんにしかつかえない技なんだ。
『紡ちゃん』
「きゃああああ!!」
桃葉くんが呼ぶ、私の名前。
思い出すだけで、胸がきゅんを通り越してぎゅんと疼いて、たまらない。尊い。アーメン。
思わずじたばたと手足を動かして絶叫すると、リビングの方から「紡、うるさい!」とママの怒号が聞こえてきた。肩を竦めて反省する。
つむぐ、紡。
あのね、パパとママがたくさん考えてつけてくれたこの名前、もとから特別で大好きだったけれど、桃葉くんが『いい名前』って言ってくれたからもっと大好きになった。
桃葉くんに出会ってから、そういうことばかり。
美術室のにおいと静けさが好きって桃葉くんが言ったから、私ももっと好きになった、そうでなくとも桃葉くんが来てくれるから、他に誰もいないあの部屋も特別になった。活字を読むとすぐに眠くなっちゃう私だけれど、桃葉くんが好きって言うから、太宰治だって赤川次郎だっていつか読んでみたいって思うの。
それに、いちばんは。
――――紡ちゃん、紡、つむぐ、ツムグ……。
もごもご、と口の中で唱えてみる。ううん、やっぱり違う気がする。
家に帰ってきて、自室、ベッドの上。
抱き枕代わりのキリンのぬいぐるみをぎゅうぎゅうに抱きしめて転がりながら、桃葉くんのことを思い浮かべる。思い浮かべる、というか思い浮かんでくる。私、暇さえあれば桃葉くんのことばかり考えているなあ。
『ずっといい名前だなって思ってた、つむぐ、って』
聞き慣れたはずの名前、桃葉くんの声がなぞった瞬間、きらめいて星のように弾けた。ちかちかと眩い、あの瞬きをもう一回、と思って何度も自分で桃葉くんの真似をして唱えてみたけれど、上手くいかない。だめだな、あれは桃葉くんにしかつかえない技なんだ。
『紡ちゃん』
「きゃああああ!!」
桃葉くんが呼ぶ、私の名前。
思い出すだけで、胸がきゅんを通り越してぎゅんと疼いて、たまらない。尊い。アーメン。
思わずじたばたと手足を動かして絶叫すると、リビングの方から「紡、うるさい!」とママの怒号が聞こえてきた。肩を竦めて反省する。
つむぐ、紡。
あのね、パパとママがたくさん考えてつけてくれたこの名前、もとから特別で大好きだったけれど、桃葉くんが『いい名前』って言ってくれたからもっと大好きになった。
桃葉くんに出会ってから、そういうことばかり。
美術室のにおいと静けさが好きって桃葉くんが言ったから、私ももっと好きになった、そうでなくとも桃葉くんが来てくれるから、他に誰もいないあの部屋も特別になった。活字を読むとすぐに眠くなっちゃう私だけれど、桃葉くんが好きって言うから、太宰治だって赤川次郎だっていつか読んでみたいって思うの。
それに、いちばんは。



