それは、金平糖の様な時間でした。
甘くて、いろんな色がある…。
でも、ドゲトゲで、すぐに消えてしまう。

小さな容器に入ったいろんな色の金平糖。
可愛くて、甘くて、幸せな味がするのに、直ぐに食べ終えて、消えてしまう。
「星の欠片」なんて、母がよく言っていた。

これは、甘くて小さい金平糖によく似た
直ぐに消えてしまった幸せだった恋の話。


大学2年の夏、私はバイト先の飲食店で彼と知り合った。
シワ1つない綺麗なスーツを着こなした男性。
真っ黒な艶のある髪に目を惹かれて、2秒だけ…息を忘れた。
「先輩」と呼ばれた彼は、後輩と思われる人2人と同僚と思われる人1人を引き連れていて、彼等に優しい視線を向けていた。

「いらっしゃいませ。4名様でしょうか?」

ハッと我に帰り、声をかけると「はい。」と彼と一緒に来た男性1人がそう答えた。
席へ案内してお冷を持って行き、注文を聞いた。

初めて聞いた彼の声は低くて、優しくて、とても落ち着く声だった。
同僚と思われる人が「坂谷」と彼の肩に手を置くと、彼はその男性に視線を向けた。
「坂谷」それが彼の名前だと知った時、胸が熱くなった。

その日から、彼は良くお店に来る様になった。
「良く」と言っても2ヶ月に一度のペース。
周5のペースでバイトをしていた私は、殆ど彼の来店時には顔を合わせた。

彼と会うのが5回目になったあの日、バイトが22時に終わった私が外に出ると、彼がタバコを加えて息抜きをしていた。
裏口のないお店だったから、お客さんが出入りするドアから彼と出会った。

「こんばんは、仕事お疲れ様。」

私に気付いた彼は、私を見て優しく笑ってそう言った。
その瞬間、胸が熱くなって、嬉しくて…。
つい、口を滑らせてしまった。

「あのっ、私…貴方が好きです。」

彼は目を見開いて、真っ直ぐ私を見て…
「俺、36のおっさんだよ?」と苦笑いをした。

「はい、それでも…貴方が好きです。」

そう答えると彼は、タバコの火を消し私の頭に手を乗せて店内へ入って行った。

彼からしたら、私はまだ子どもで…ただの行きつけのお店の店員なのだと目を固く瞑って涙が出るのを我慢した。
ずり落ちてもいない右肩に掛けたバッグを掛け直して重い足を動かした。

「帰るの?」
と声がして振り返ると鞄を持った彼が居た。
彼が入店したのは50分くらい前…いつもなら1時間以上滞在しているはずだ。

それを知っておいて、この状態が理解出来ないほど…私は鈍くはない。

「いえ、帰りたくないです。」

彼の方へ足を進めて笑って返す。
すると彼は優しく笑って「僕の家に来る?」と言って車のキーをポケットから取り出した。

「はい。」

彼の背を追い、真っ黒な車の助手席に案内された。
車に乗り込み、シートベルトをすると彼が運転席に座る。

「親の人、心配しないかな?」

「親と暮らしてたら、家まで送り返すんですか?」

あっ…と気付いた様に私を見た彼に軽く首を傾げて微笑んだ。

「いや、俺はそこまで優しくはないよ。」

不敵に笑う彼の笑顔に胸が高鳴る。
シートベルトをして、彼は車を出した。

「大丈夫ですよ。私、一人暮らしなので。」

クスリと笑い、そう返した。
自然に絡まれる手は大きくて暖かい。
赤いライトが光る信号に触れるだけのキスを交わす。
彼の家は如何にも高そうなマンション。
車を降りる為、自然に離れた手は重なる事はなくエレベーターに乗り込んだ。

家に通されて、バタンと大きな音を立ててドアが閉まる。

カチャと彼が鍵を掛けて、絡まるキスをした。
靴を脱ぐと抱き上げられ寝室へ。
ゆっくりとベッドに降ろされて、彼の影が私をすっぽりと隠した。

絡まるキスを何度も繰り返す。
銀色の糸が彼と私を繋ぐ。
色っぽく息を溢して、彼はネクタイを緩める。
露わになる彼の姿は、凄くカッコいい。

「こんなおっさんに惚れるなんて、見る目がないね。」

彼はクスリと笑って私の唇を奪う。

「そんな事、初めて言われました…。」

離れた唇で笑って返せば彼はパチパチと目を瞬かせた。
その姿がとても可愛くて、今度は私からキスをする。
触れるだけの短いキス…。

彼の手で脱がされて、キスが至る所へ降ってくる。
ありのままの姿になった私に、彼は長くて絡まるキスをしてくれた。

腕を彼の首に回し、水音と漏れる私の声だけが耳に入る。
割れ物を扱う様に優しく触れられた肌。
口から溢れる甘い吐息。
飢えたケモノの様な彼の瞳と、優しい深いキス。

私達は何度も体を重ね合った。