この時、二人はまだ若すぎたのかも知れない。
限られた時のせせらぎを二人の幸せは静かに流れた。
蜉蝣(かげろう)が初秋(しょしゅう)の空を揺らめいた。
◇◇◇◇◇◇◇
こうして二人は互いへの熱い慕情と自制の狭間から滲み出る淡い想いを育み、青年はその間も着実に執筆に取り組んでいた。
そして明けない夜などない。
秋の曙光(しょこう)が病室の白い壁を明るく染める心地いい朝の事。
看護師が青年の検温に訪れると、青年はペンで用紙をを睨(にら)んでいた。
そしてほとんど眠ってないらしい血走った目が看護師の心配そうな視線とぶつかり、
「出来た…」
と蒼白い表情で小さく語った。
その言葉に彼女は、
「うん…」
と返すと、師長の忠告と医師の快諾を経てその日の午後、看護師である彼女がつき添ってという条件で近くにある郵便局への外出が認められた。
二人が病院を出発した時刻には日が黄昏(たそが)れ始めていた。青年は病衣から、ブラウンのスラックスとジャケット、白いワイシャツに着替え、そして彼女は白衣から、真白なワンピースとピンクがかったベージュのカーディガンのいでたちで病院をでる。
殺風景な病院の構えも、今日はまるで幾何学の藝術のようだった…
「人事は尽くした。天命を待つ…」
郵便ポストに原稿の入った封筒をゆっくりと入れると青年は呟く。
「お参りしていこっか…」
そう言い出したのは彼女だった。
それからしばらく、二人は生い繁った草木の狭間、夕日の木漏れ日のなか神社への階段を踏みしめていた。鈴虫や蟋蟀(こおろぎ)が鳴き、儚く色づいた錦繍(きんしゅう)の如き紅葉(もみじ)や楓、銀杏(いちょう)の唐紅(からくれない)や黄金色(こがねいろ)に染まった秋が二人を包む。
そして苔(こけ)生(む)した幽玄な石畳の参道を通り、鳥居をくぐると厳(おごそ)かな拝殿へと辿り着く。
そして参拝を前に彼女は財布に入っていた五百円硬貨を、青年は、
『ええい、ままよ!』
と心に叫ぶと【福沢諭吉】の札を賽銭箱(さいせんばこ)に投げ入れ二人手を添え鈴緒(すずお)を鳴らして手をあわせそれぞれに祈りを込めた。
限られた時のせせらぎを二人の幸せは静かに流れた。
蜉蝣(かげろう)が初秋(しょしゅう)の空を揺らめいた。
◇◇◇◇◇◇◇
こうして二人は互いへの熱い慕情と自制の狭間から滲み出る淡い想いを育み、青年はその間も着実に執筆に取り組んでいた。
そして明けない夜などない。
秋の曙光(しょこう)が病室の白い壁を明るく染める心地いい朝の事。
看護師が青年の検温に訪れると、青年はペンで用紙をを睨(にら)んでいた。
そしてほとんど眠ってないらしい血走った目が看護師の心配そうな視線とぶつかり、
「出来た…」
と蒼白い表情で小さく語った。
その言葉に彼女は、
「うん…」
と返すと、師長の忠告と医師の快諾を経てその日の午後、看護師である彼女がつき添ってという条件で近くにある郵便局への外出が認められた。
二人が病院を出発した時刻には日が黄昏(たそが)れ始めていた。青年は病衣から、ブラウンのスラックスとジャケット、白いワイシャツに着替え、そして彼女は白衣から、真白なワンピースとピンクがかったベージュのカーディガンのいでたちで病院をでる。
殺風景な病院の構えも、今日はまるで幾何学の藝術のようだった…
「人事は尽くした。天命を待つ…」
郵便ポストに原稿の入った封筒をゆっくりと入れると青年は呟く。
「お参りしていこっか…」
そう言い出したのは彼女だった。
それからしばらく、二人は生い繁った草木の狭間、夕日の木漏れ日のなか神社への階段を踏みしめていた。鈴虫や蟋蟀(こおろぎ)が鳴き、儚く色づいた錦繍(きんしゅう)の如き紅葉(もみじ)や楓、銀杏(いちょう)の唐紅(からくれない)や黄金色(こがねいろ)に染まった秋が二人を包む。
そして苔(こけ)生(む)した幽玄な石畳の参道を通り、鳥居をくぐると厳(おごそ)かな拝殿へと辿り着く。
そして参拝を前に彼女は財布に入っていた五百円硬貨を、青年は、
『ええい、ままよ!』
と心に叫ぶと【福沢諭吉】の札を賽銭箱(さいせんばこ)に投げ入れ二人手を添え鈴緒(すずお)を鳴らして手をあわせそれぞれに祈りを込めた。



