君の瞳の影~The Shadow Of Your Eyes~

まあ言ってしまえば親父の夢の押し付けですかね…」
と、問いかけに応え始めた。
「大変でしたよ。子供の頃は…。
毎日学校から帰ったらひたすらマンガを読まさせられては感想文…。
それが終わったらひたすら絵書かされてねえ…。ほんと嫌になりましたよ。
それでいて、俺を怒る時は『そんな事じゃ立派なマンガ家になれんぞ』ですからねえ。…ったく、誰のおかげで苦労してると思ってるんだか…。あの馬鹿親父が…」
青年は愚痴(ぐち)をこぼし看護師は微笑んだ。
「でもね、日本の漢字はいわゆる象形文字っていって、象や鳥・手などのように、動物や人体を象徴化したものでね…」
「ええ…」
「漢字それ自体がマンガだとも言えるんです。マンガはその頃から始まってたんです。どうです?ロマンのある職業でしょ!」
「ええ、素敵ね…!」
看護師はつぶらな瞳を輝かせて応える。
「…さあ僕の事はこれくらいで、今度は松田さんの事も聞かせてください。
なぜ今の御職業を志(こころざ)されたんですか?」
青年も彼女に尋ねた。
「えっ?私ですか…。私はそんなうまく説明出来ないし…」
看護師は恥ずかしがったが、
「素直に応えてくれればそれで十分ですよ」
「じゃあ…私は…」
彼女も青年に背中を押されて語り始めた。
「私は幼稚園からずっと一緒だった幼馴染(おさななじみ)がいたんです。優しい子で頑張り屋さんで…。
お互いに気心の知れた苦しいことも楽しいことも分かち合った親友だったんです。
だけどその子高校生の時に白血病に罹(かか)って…。若くして亡くなってしまったんです…。
私はなにもしてやれなかった自分が嫌になって、その子のような患者さんを一人でも救う手助けになりたいと想って看護の道を選んだんです…」
「…そういやもう盆も過ぎますね…」

こうして二人の心の交流の灯火(ともしび)がともされ、そのゆらめきはゆっくりと熱を帯びていった。治療の回数やナースコールの音が重なる度に二人は徐々に仲睦(むつ)まじくなっていった。

そしてある日の事。若き看護師が青年の病室から聴こえるかすかな音色に誘われて彼の元を訪れるとノートパソコンから美しいギターの音色が静かに流れていた。
「いい曲ですね。切なくて、儚い…」
彼女は想わず感想を述べた。