その代わりちゃんとルール守ってもらうのよ。わかったわね!」
「はい、ありがとうございます!」
若き看護師は安堵(あんど)の声で感謝を述べた。
このやり取りを聞くと青年は頭を掻きむしり、うなだれたようにその場を去った。
◇◇◇◇◇◇◇
それからというもの、青年は放埒(ほうらつ)な生活をぴたりとやめて若き新人看護師の指導に素直に従うようになった。
酒の匂いをさせて病院へ帰ってくる事もなくなり、強いて言えば煙草を病院の敷地外にあるひっそりとした公園で日に数本吸う程度の事であり、それは一応形では禁止されているが末期癌患者の数少ない気晴らしの一つとして目をつぶれる範囲の事だった。
勿論青年の態度の変化になにより驚いたのは青年を擁護した若き看護師だった。
それから数週間ほどしてだろうか…。
「近頃生活態度が随分とよくなりましたね?」
どこかさり気なく問いただすような瞳で彼女は青年を褒めた。
するとその言葉を聞くと観念したように、
「…いや実は僕、こないだ自分を強制退院させるとかって会話聴いちゃったんです。だけど看護婦さん必死に止めてくれてましたね。僕看護婦さんに完全に見放されてると思ってたんですけど。ありがとうございます…」
と応えて礼を述べた。
それに対して看護師はやはりと思ったが、
「私は看護師として当たり前の事をしただけです。それに…、あなたがもし助からないんだとしても私はあなたに最後まで責任を持って関わる職務があります」
と、毅然(きぜん)として誠実に応えたが、その後で、
「それにあなた、他人(ひと)に優しくするのはいいですけど御自分の事も少しはしっかりしてください!…もう…バカなんだから…」
と頬(ほお)を少し赤らめながらつけたした。
「ああ、あれ看護婦さんに見られてたんですね。いやあ、バカか…その通りかもしれませんね…。まあ、ともかく…こちらこそ。お願いします。」
いつものように頭を掻きながらどこか所在なさげに青年は挨拶を返したが、同時に初めて和やかな雰囲気が二人を包んだ。
それから数日後の事である。栄養点滴に訪れた彼女が視線を青年のサイドテーブルにやると、十冊ほどもあろう書籍の山とノートパソコンに気づいた。
「あっ、すいません…。隠すつもりじゃなかったんですけど僕小説書いてて…」
と青年は弁解するように言葉を切り出し、
「はい、ありがとうございます!」
若き看護師は安堵(あんど)の声で感謝を述べた。
このやり取りを聞くと青年は頭を掻きむしり、うなだれたようにその場を去った。
◇◇◇◇◇◇◇
それからというもの、青年は放埒(ほうらつ)な生活をぴたりとやめて若き新人看護師の指導に素直に従うようになった。
酒の匂いをさせて病院へ帰ってくる事もなくなり、強いて言えば煙草を病院の敷地外にあるひっそりとした公園で日に数本吸う程度の事であり、それは一応形では禁止されているが末期癌患者の数少ない気晴らしの一つとして目をつぶれる範囲の事だった。
勿論青年の態度の変化になにより驚いたのは青年を擁護した若き看護師だった。
それから数週間ほどしてだろうか…。
「近頃生活態度が随分とよくなりましたね?」
どこかさり気なく問いただすような瞳で彼女は青年を褒めた。
するとその言葉を聞くと観念したように、
「…いや実は僕、こないだ自分を強制退院させるとかって会話聴いちゃったんです。だけど看護婦さん必死に止めてくれてましたね。僕看護婦さんに完全に見放されてると思ってたんですけど。ありがとうございます…」
と応えて礼を述べた。
それに対して看護師はやはりと思ったが、
「私は看護師として当たり前の事をしただけです。それに…、あなたがもし助からないんだとしても私はあなたに最後まで責任を持って関わる職務があります」
と、毅然(きぜん)として誠実に応えたが、その後で、
「それにあなた、他人(ひと)に優しくするのはいいですけど御自分の事も少しはしっかりしてください!…もう…バカなんだから…」
と頬(ほお)を少し赤らめながらつけたした。
「ああ、あれ看護婦さんに見られてたんですね。いやあ、バカか…その通りかもしれませんね…。まあ、ともかく…こちらこそ。お願いします。」
いつものように頭を掻きながらどこか所在なさげに青年は挨拶を返したが、同時に初めて和やかな雰囲気が二人を包んだ。
それから数日後の事である。栄養点滴に訪れた彼女が視線を青年のサイドテーブルにやると、十冊ほどもあろう書籍の山とノートパソコンに気づいた。
「あっ、すいません…。隠すつもりじゃなかったんですけど僕小説書いてて…」
と青年は弁解するように言葉を切り出し、



