心臓がここにいるんだと溢れんばかりに主張しているみたいにうるさくて、先輩に聞こえてしまいそうだと思った。いっそ、聞こえてしまえば、苦しむこともないのに。私はまだ、このうだるような熱い嘘に照らされていたいと思ってしまう。
「菜月ちゃん」
「はい」
「キスしたい」
ダメだと言ってもするくせに、その言葉ですら、本心じゃない。
心の底に浮かぶ言葉をかき消して、震える睫を擦りあわせた。微かに先輩が馨る。もう、引き返せないと思った。
先輩が私に近づく理由は一つ、ただの暇つぶしでしかない。
我が校舎の二階に位置している美術室からは、中庭の様子がよく見える。吹き抜けになっているから、誰もいないここには声もよく届いてきた。
中庭が、先輩のような派手な人たちに占拠されているという話は有名で、ほとんど人の話を聞き流している私ですら知っているくらいだった。だから、自然と先輩たちが話している声も聞こえてくる。
それまで少しも興味のなかった会話が耳に入ってきたのは、先輩が私の前に現れてからだった。
「菜月ちゃん」
「はい」
「キスしたい」
ダメだと言ってもするくせに、その言葉ですら、本心じゃない。
心の底に浮かぶ言葉をかき消して、震える睫を擦りあわせた。微かに先輩が馨る。もう、引き返せないと思った。
先輩が私に近づく理由は一つ、ただの暇つぶしでしかない。
我が校舎の二階に位置している美術室からは、中庭の様子がよく見える。吹き抜けになっているから、誰もいないここには声もよく届いてきた。
中庭が、先輩のような派手な人たちに占拠されているという話は有名で、ほとんど人の話を聞き流している私ですら知っているくらいだった。だから、自然と先輩たちが話している声も聞こえてくる。
それまで少しも興味のなかった会話が耳に入ってきたのは、先輩が私の前に現れてからだった。



