「菜月ちゃん」
「こんにちは」
「アイス、差し入れに来た」
にっこりと笑って呟くものだから、思わず「本気だったんですね」と言葉が出た。まるで本気で私が好きでたまらない人みたいなことをするから可笑しい。彼は、私を好きではないのに。
「俺はいつでも本気なんだけどなぁ」
けらけらと笑って、私の手の上にソフトクリームを乗せた。まるで今来るとわかっていたみたいに冷たいままのパッケージは、ついさっき冷蔵庫から取り出したものみたいだ。その不思議に顔を傾げていると、更科先輩は私の手を引いて、彼の隣の椅子へと私を導いた。
隣に座ってアイスを食べるということなのだろう。
彼氏と彼女みたいな生ぬるいシチュエーションに頬が熱くなりそうで、急いで顔を隠した。砂のお城みたいな壊れやすい関係だと理解しているから、この気持ちに気付かれたくない。
「菜月ちゃん、食べないの?」
「食べます、よ」
精一杯の思いで呟いて、味のしないクリームを頬張る。気を抜いたら好きだと言ってしまいそうだった。それでもその言葉を言わないのは、言ってしまったら、この関係が崩れると知っているからだ。



