翳踏み【完】

少し顔を顰めるだけで私の変化に気付いてしまうような先輩が、そんな人だなんて思えないのに。それなのに、先輩の言葉を心から信頼することもできない私は、なんて中途半端な人間なのだろう。


「なんでも、ないです……」


言葉に詰まって、縺れるように声を発した。朝の光に包まれた夏希先輩が、ゆるく、絶望するように笑った。まるで、何か悪いことをしていることを知ったような顔だった。


いつもなら、一人で歩いている道を二人で歩いて行く。指先に自分以外の温度が触れて居る状況になれない私は、何度でも視界の端に見える先輩の手を見つめて、言葉に詰まった。


学校が近づけば自然と周りに注目される。その視線から逃げるように放そうとする指先を、先輩は逃がすことなくぎゅっと握りしめている。その様に小さく「せんぱい」と声をかけて、また、鋭い瞳に息が止まった。


「放さないから」

「せん……」

「見せつけてやればいいじゃん。何も困らないだろ? 俺の彼女だし」


彼女、と何度も言われて、ああ昨日のことは夢ではなかったのか、と今更に思ったりする。その言葉に何と言えばいいのかわからない。

何も返せないままに俯けば、覗き込むように見つめられる。どうしたらいいのだろう、と思案する隙に、彼が「もう手加減しねえ」と言い放ったのを聞いた。