翳踏み【完】

確実に私を見つめながら手を振ったくせに、次に彼が手に取った電話の通話先は、私のクラスでも有名な更科軍団の男子生徒だった。もちろん、私なんかじゃない。

そうやって、今まで何人の女の子を期待させてきたのだろう。きっと私が思う以上に多いはずだ。

電話を切った同級生が、ちらりとこちらを見つめてから教室を出た。特にかかわりのある生徒でもないから、どういう意味があったのかわからない。その意味に思考を巡らせている間に先生が入ってきたから、すぐに思考を切り上げた。


授業中、窓の外の夏に気を取られている私のスマホにメッセージが届く。


“今からコンビニ行くけど、菜月ちゃん、アイス何食いたい?”


その自由さが、少し眩しい。




* * *






放課後、いつものように掃除を終わらせて美術室に入ったら、当たり前のように彼がいた。


「更科、先輩?」


確認するように呟くと、私の作品を見つめていた瞳が、こちらを見た。何度見ても綺麗な瞳だから、まるで世の中の悪いことなんて知らなさそうに見える。それなのに彼は不良らしいから、不可思議だ。私には、人を見る目がないのかもしれない。