「誰かに見つかっちゃいますよ」


恐れるように呟いた。遊びで、ただのゲームで近づいた地味な女だってわかっているから、これ以上勘違いさせないでほしい。そう思うのに。

目を合せようと上げかけた顔をあげられなくなった。先輩が、当たり前みたいに私の手を引いたからだ。


「別に良いよ。何も困んない」


「せん……」

「だって菜月、俺の彼女でしょ。手ぇくらい繋いでも良くね? それとも、もっと恥ずかしいことしたい?」


ケラケラと笑って、当たり前のように発言する。その手に引かれて、止めることもできずに足を動かした。

何も困らないなんて言うけれど、困るに決まっている。それとも、私との関係を見せつけて、良いだけ悪目立ちさせてから、ずたずたに捨ててやろうと考えているんだろうか。

もしもそうなら、私はどれだけ嫌われているんだろう。

昨日、素直に知らないふりをして、先輩に振られていればよかったのかもしれない。私の中途半端な自尊心が邪魔して、先輩を傷つけたのだろうか。だからこうして甘やかして、そのうちに私をどん底に突き落とそうとしているのだろうか。


「何難しい顔してんの?」