「待っ……」
「もう待たねえよ。俺が近づくと菜月が危ない目に遭うと思って我慢したけどもうやめるわ、楽間にフラフラされるくらいなら、今ここで俺のもんにする」
「なつきせんぱい」
「なあ、どうやったら俺を好きになってくれんの」
まるで都合の良い言葉が聞こえる。ぐるぐると回って忙しない感情のせいで鼻の奥がつんとする。泣くべきじゃないと思うのに涙で視界が不透明になった。それを見た先輩が、自嘲している気がする。違う。そうじゃない。もうとっくに、泣きたくなるくらいにだいすきなんだよ。
「あいつなんかより俺の方が、ずっと前から菜月に惚れてる、気付けよ」
言葉と共に、熱い唇が落ちた。いつもより少しだけ強引に齧られて、何も考えられなくなる。全てを奪うみたいな熱が先輩の体から乗り移ってきて、頭がくらくらする。たっぷりと捕食されて、切れた息のまま、先輩の切なげな瞳を見つめた。
「罰ゲームじゃ、ないんですか」
こぼれた本心に、先輩が「何のこと」と呟く。心底理解できていなさそうな言葉にこちらが不安になった。
「前に、美術室で聞いたんです。中庭で、先輩たちが、私に構ってるのは罰ゲームだって」
「誰がそんなこと……、ああ、あった、か? あれは楽間が勘違いして言ってきただけだろ。最後まで聞いてなかったのか」
「最後まで聞いてないって、何話してたんですか」
「椎名菜月に構ってるのはマジで惚れてるからだって話だよ」



