翳踏み【完】


「諦められないけど、せんぱいにすきなひとがいるなら、もう、近づかない」


きっと後悔するんだろう。ずっと何年も後悔して、私はこの恋を、永遠に忘れられないかもしれない。

無理に笑ったら、顔を顰められた。そんなに苦い顔をしているだろうかと可笑しくなる。

私が思う以上に、きっと情に厚い人なのだろう。楽間くんをこれ以上困らせないようにと立ち上がって、ベッドから出た。もう大丈夫だよ、と笑ったら、ますます顔を顰められる。

私の顔を見てため息を吐いた楽間くんが、重々しく口を開く。その言葉を、私はどう捉えれば、いいのだろう。


「倒れたお前を連れてきたの、俺じゃなくて、夏希さんだから」




楽間くんの言葉に釣られて、まんまと繁華街へ来た。本当のことが知りたいなら、21時に東広場へ来たらいいと、その言葉のままに広場の端に縮こまっている。

普段はもう家でお風呂に入っている時間だ。

街の人たちも色を変えて、普段見ないような香りが漂っていた。ここに、本当に先輩が現れるのだろうか。東と言えば、街の中でも特に治安が悪いことで有名だ。そんなところに一人でいること自体が悪いことをしているようだ。広場のすぐそばで何人かの集団がたむろしている。それをなるべく見ないようにして、ローファーの先を見つめた。