「こんなとこでぐちぐち言ってるようなてめえらの方が、興味ねえ。失せろ」
どうしてそんな男らしいこと言うの。まるで本当に私が好きみたいだ。きっとここで聞いていることを知っているんだろう。もしそうじゃないのなら、私は馬鹿みたいに勘違いして舞い上がってしまう。
いつも私に話しかけるときは優しいのに、こうして聞く彼の声はとても冷たい。どちらが本物の彼なのかわからないから、私は猛烈に惹かれているのかもしれない。
ぼんやりと、咀嚼することすら忘れていた口を動かして、なおも続いている女子生徒の声が遠ざかる。酷いとか、なんであんな女? とか、たくさんの声が響いて、胸にゆっくりととげを残していく。彼女たちは、彼が私を落とすゲームをしていることを知らないのかもしれない。
きっとそうだろう。
だからこうして驚いているのだ。真実を知ったら、彼女たちはまた私を笑って、やっぱりねと言うに決まっている。知っているのに、今こうして、少しでも私を庇ってくれているこの人が、どうしても好きだと思ってしまった。
静かに立ち上がって、準備室の小窓から美術室の様子を伺う。すでに女子生徒は居なくなっていた。彼一人が、じっと隅に置かれたキャンバスを見つめている。
それは、私が描いている途中の絵だった。先週先生から課題として与えられた題材は、自分の顔だった。



