「地味子ちゃんからかうのも大概にしなよぉ」

「あ? 誰のこと言ってんの?」

「椎名キョウの娘」

「娘?」

「え、まさか知らないの? 椎名菜月って椎名キョウとキョウ フジシロの娘だよ。あんな子が」

「へえ」

「ちょ、夏希、椎名さんがどうでも良いからって、返事適当すぎ!」


げらげらと笑い声が響いてくる。ああ、先輩は知らなかった人なのかとなぜか妙に納得してしまった。だから、私への対応もあまりにも普通だったのかもしれない。

私の父と母を知らない人がいること自体が珍しい気もするけれど、先輩だったらありえなくもないような気がした。何故って、あまりにも住む世界の違う人だからだ。そんな人が私に注目するわけがない。

あるとしたら、あの日ここで聞いたゲームの一環でしかない。わかっているから、こうして笑われていることだって耐えられる。だって、私は、ゲームだって何だって、先輩の世界に少しでも存在できるのなら、何でもいいと思えるから。


「ちげーよ、俺がどうでもいいのは菜月じゃなくて、お前らのクソつまんねぇ会話の方だから」

「え?」


覚悟を決めて、耳を塞ごうとした時だった。あまりにも真っ直ぐに、聞いたこともないような声色で言い放たれた言葉が心臓のど真ん中に突き刺さる。