不良なんて、縁のない生活を送っていた。普通の高校生活二年目だった。それなのにその人は、まるで当たり前のように現れて私の普通を攫っていった。

それが、彼らの遊びだってことくらい、私は良く知っている。それでも良いと思ってしまうから、きっと恋なんだろう。


「菜月ちゃん、何してるの」


蜃気楼が遠くで揺れるみたいに遠い人だと思っていた。まるで自分には関係のない人だと思っていた。だから、いまだにどうして彼がここで私を覗き込んでいるのか、よくわからない。


「黙ってたら、襲うよ?」


からからとさっぱり笑って、ゆっくり私に顔を近づける。微かに香水みたいなにおいがするけれど、それが何の香水の香りなのかもよくわからない。


もう何度かこうして顔を寄せられたけれど、そのたびに死にそうなほど心臓が鼓動しているから、きちんと確かめるすべもない。きっと知る必要もない。

遊びみたいに軽い調子で近づいて、私だけが翻弄されている。そういう、関係だから。


「こんなところじゃ、ばれますよ」