無名ファイル1


「そういえば、魅香の旦那さん、
アイドルなんでしょう?やっぱり、
忙しい?今の時期はテレビとか。」

だ、旦那!?私の教材をめくりながら、

平然と言う姉を二度見しかけて留まる。

「いや、別に旦那…では無い。
休みは無いって言ってたなぁ…」

即座に訂正して相槌を打つ。

あーあ…今頃何してるのかなぁ…。

「会いたいなぁ…。」

「なっ!?」

私をにんまりとした顔で見つめる姉…。

「…って思ってるでしょう?」

思考を読まれたかとヒヤリとする。

こ、これが噂の女の勘ってやつ…?

私は銀髪の毛先を指先で弄りながら、

小さく頷く…その瞬間携帯が震えた。

「…もしもし」

「もしもし、声が聞きたくなった。
今…時間大丈夫か?…魅香。」

姉の生暖かい視線はムズムズするが、

愛しい声が鼓膜を揺らすのが心地良い。

「私も蛍の声…聞きたかった。
早く蛍に会いたいなぁ…」

気がついたらそう口走っていた…。

携帯越しに息を呑む音が聞こえる。

「なんてね!とにかく仕事頑張れ!」

「ちょ、待っ…」

勢いよくバイバイと言って通話を切る。

携帯を持つ手が微かに震えていた…。