「失礼いたします」

「随分と騒がしかったですね。
取り敢えずお帰りなさい、魅香。」

昔と変わらず厳しい顔をした母。

鋭い視線…変わらないなぁ。

「ふざけた態度は改めたようですね。
気が違えたかと心配しましたが、
多少は安心しました。月乃家の恥に、
これ以上ならないでくださいね。」

程よく狭く日の当たらない薄暗い部屋。

圧迫感のある壁にそって並ぶ本棚。

「はい、肝に銘じておきます」

気が違えた…という時期はいわゆる、

鏡の前で理想を創っていた時のこと。

あの時は理想の自分を創らないと、

頭痛がひどくて立っていられなかった。

立っていられたのは姉様のおかげ。

あのおまじないのおかげなんだから。

「失礼いたしました」

部屋を出ると心配そうな顔をした姉が、

こちらに駆け寄ってきた。

「御咎めは無し、挨拶も終えました。
今日から一週間滞在予定です。」

淡々と告げると姉はホッとしたように、

微笑んで私の手を引いて歩き出した。

「堅苦しい話し方は止めましょう、
…その、聞きたい事が沢山あるの。」

「…そう、あのね…私も」

私達はぎこちなく笑い合った…。